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映画がそんなにエライのか


※仕事に関係ない友人と映画を観ると、そのあとで盛り上がるのは映画の中のお洋服の話・食
べ物の話・俳優さんの美醜の話♪ これがまた楽しいの。業界的にはこういうの「小ネタ」と
かって呼びます。だけど、映画本体よりこっちのほうがよっぽど「よくできてるよ」っていう
ときもあります。
※カット割より演出より、ましてや映像や脚本、役者の演技よりもっと気になる些末な事象に
ついてウンチクたれるコーナーです。


Vol.21 「『2046』の木村拓哉」の巻 2004/09/24 New
●あらすじ:『花様年華』の主人公が小説をしたためる
●見どころ:木村拓哉のナレーション
●10/23(土)公開: http://www.2046.jp


「めざましテレビ」で本作のプロモーションがあったとき、アナウンサーどもが鬼の首をとっ
たように「ふたつの世界を行き来する話で2046ですから、公開日はずばり10月23日と
予想します!」と言ったとき、「フン、ファンならみんなお見通しでい」と毒づきはっとした。

私ってウォン・カーウァイのファンだったのか……

生まれて初めて意識的に観た香港映画は『天使の涙』である。難解といわれる作品だが私は大
好き。私が大好きだった頃の香港という町の匂いがぷんぷん漂ってくる。「さびしい」とか
「人恋しい」とはどういうことかを容赦なくつきつけてくる。


いやなんでそんなことになったかというと、その頃急に映画の仕事をすることになったから。
映画は嫌いではなかったけれど、あらゆるジャンルとなると怪しい。急場しのぎで香港映画の
おさらいをしていたのだった。思えばネットなんて全然普及していなくて、覚えたてのパソコ
ン通信で盛りあがっていた頃の話。この監督ってスゴイ人なんだなと思い、その手のフォーラ
ム(いまでいうとメーリングリストに近いかな)に入りまくって情報を集めた。

そんな頃。カーウァイが香港映画史上最高の製作費を得てSFアクションを撮るという話が飛
び込んできた。ネットではなく“パソ通”の友人から。

いや興奮しましたねえ。この監督が撮るSF!? しかも大予算! この頃、主演にはハリウッ
ドスターを迎えるという話もあり、ブラッド・ピットの名前がまことしやかに流れていた。こ
れが96年秋口の話だ。


それから8年。ようやくこの“SF”を観ることができるようだ。いや、ここまできたら「観
せていただける」という表現のほうがぴったり来るのではないか。

現在、またしても仕事上この作品を煮たり焼いたりしなければならず、『欲望の翼』からチェ
ックを始めた。そうです。まとめておくと、『欲望の翼』の続編が『花様年華』であり、その
延長線上に本作がある、と監督は言っています。カンヌで披露されたバージョンは確かにその
ようでした。内容をプレスからかいつまんでみると……

“男”が安宿の2046号室で小説をしたためている(このあたり『花様年華』と同じシチュ
エーション)。その小説はSF。……自分の過去を知りたい人々は、2046年に向かう不思
議な列車に乗り込む(なんで“過去”を知りたい人が未来に行くかは不明)。その列車の案内
役は美しいアンドロイドだ(これがたぶんフェイ・ウォン)。しかし2046年の真相を知る
者はいない。そこに着いた者は記憶をなくしそこから戻ることはないから。ただひとりこの小
説の作家である“男”を除いて……。

シュールでんな(^^;; 

カンヌへ乗り込むぎりぎりまで追加撮影し、徹夜で編集作業、それでも上映時間に間に合わず、
他の出品者に大ひんしゅく。しかもその内容は難解で、途中退席者も続出。映画は日本から参
加の木村拓哉の日本語ナレーションで始まるが「なぜ日本語!?」という戸惑いの声も多かった
という。鳴り物入りで参加した木村拓哉の出演がわずか数分ということも、さまざまな問題を
呼んだらしい。カーウァイ作品じゃまだマシなほうだと思うけどね。

そんな問題山積み状態で大丈夫なの? と思ったらやっぱり転んでもタダでは起きないカーウ
ァイ、さらに追加撮影し、現在、9月23日に予定されている上海でのプレミア上映に向け鬼
のような再編集中だという(すいません書いているうちにこのプレミア上映は20日に繰り上
がり、予想通りカンヌとはまったく違うバージョンが披露されました)。

ほんと困った人だ。9月28日発売号の記事をどうしてくれよう。カンヌバージョンの想定で
書いた記事、ぜーんぶフタ開けたら違ってました、なんてことになったらどうしよう。いや、
あり得る。あり得るからこの人になんとなくひかれてしまうんだろうけれど。

というわけで、この記事のために集めたけど没にした(アンタもカーウァイか!?)ネタをここ
で整理し披露することにする。

まずはその長い長い紆余曲折。

・93年頃から香港でSMAPブーム、というより木村拓哉人気が高まる。

・96年、木村拓哉が写真集の撮影のため香港へ。ブーム最高潮。しかし群がるファンにお行
 儀の悪いサイン(中指立てちゃアカンだろ)をしたため大ひんしゅくを買う一幕も。

・96年、事務所に口出しさせず全部自分でプロデュースしたソロ写真集「木村拓哉」発行。
 カーウァイ監督が清朝の貴婦人に扮した木村拓哉に目をつけ、『花様年華』の主役にとラブ
 コール。ちなみにこの写真、50〜60年代の大御所香港女優・尤敏にそっくり。最後のページ
 に掲載されてますから見てみてください。

・99年4月20日、木村拓哉が監督と面通しのため極秘で香港へ。
 当時憶測された映画の内容:タイトルの「2046」とは、香港返還から50年後を指す。香
 港の人々は番号で統制されており、絶望の淵で生きている。トニー演じるロボット警官とキ
 ムラは“共有部分”を多く持ち、この2人が出会ったとき「2046」の謎が解明する……

・99年6月、キャスティングが始まる。カリーナ・ラウ、レスリー・チャンらが役作りのた
 め監督を訪問。カリーナは役柄上あと9kg太れと指示される。

・99年夏、監督はブラッド・ピットにも出演オファーとのニュース。噂は本当だったのかと
 香港仔ときめく。物語は近未来を舞台に、3組のカップル(トニー&カリーナ、木村&フェ
 イ、欧米1組)が織りなす恋愛ストーリーと伝えられる。一方で、荒廃した2046年の香
 港で、2組の特別捜査官(木村&フェイ、トニー&カリーナ)は生死をかけた闘いに挑む。と
 も。またもう一本の新作『花様年華』と同時製作との発表が。

・99年9月6日、タイ(バンコク)でクランクイン。

・00年初頭、断続的に行われていた撮影がどうやら完全にストップしてしまったという報 
 道。木村拓哉のスケジュールが折り合えず降板説、監督とのあつれき説(のちに双方が認め
 る)、監督重病説などが飛び交う。実際のところ、中華圏の経済危機に伴う資金難であった
 ようだ。運の悪いことに『ブエノスアイレス』の興行的失敗が重なり、資金集めには最後ま
 で苦労した模様。

・00年カンヌで『花様年華』が高く評価される。木村拓哉は先にこっちが完成したことにシ
 ョックを受けたと後に語っている。

・00年5月、木村拓哉自分のラジオ番組でちょっぴりグチる。

・00年9月、フェイ・ウォンがインタビューで「ストーリーはキムラと私が中心。トニーは
 間に入るだけという感じ」「キムラの演技は大げさ」と発言。波紋を呼ぶ。

・00年10月、12月から撮影再開のニュース←噂に終わる

・00年10月、東京国際映画祭で『花様年華』を上映のため、監督が来日。『2046』に
 ついても語る。
 「『花様年華』はもう少し早く完成させて、すぐ『2046』にかかるつもりだったが、結
 果的にずれ込んで苦しい状態になった。この2本は切り離して考えられないものであり、 
 『花様年華』から『2046』が見えるだろうし、『2046』から『花様年華』を、見る
 ことができると思う」この意味深発言に、ファンの期待はますます高まる。

・01年、監督が『In the mood for love 2001』を発表。『花様年華』の登場人物達がモダ
 ンな香港を舞台に登場する謎めいた短編で、『2046』への橋渡し的な内容ではと推察さ
 れる。

・01年10月13日、監督が香港の董建華行政長官から「銅紫荊星賞」を受賞。インタビュ
 ーで本作に触れ、年末から撮影を再開すること、木村拓哉はもうあきらめウォンビンを起用
 するつもりであること、それ以外にもキャストの入れ替わりを考えていると表明。

・01年12月20日、『花様年華』特別版公開にあたっての記者会見で、監督は「木村拓哉
 は降板するのか」という問に対し笑って答えず。これが「木村拓哉降板説」を決定づける。

・02年1月、一から撮り直すのではという噂が流れる。度重なる撮影中断とキャストの追加

・02年春、カンヌでできてもいないこの作品の版権を発売開始。日本はブエナビスタが獲得
 した。

(この間、何度も撮影再開の噂が流れる。どこまで本当だったか不明)

・03年10月、撮影再開宣言。監督、木村の成長をほめちぎる。

・03年11月3日、上海で発表会。妻子のことを聞かれ木村キレる。

・03年11月、木村拓哉、自分のラジオ番組で裏話披露。これちょっと面白いので読んでみ
 てください。
http://www.captain-takuya.com/what03-11.htm

・04年1月、予定されていた2月のクランクアップは3月に延期との報道。「今年のカンヌ
 も無理だね…」というのがおおかたのファンの予想、この時点では。

・04年3月、コン・リーが新たなキャストとして撮影に加わっていたことが明らかに。

・04年4月カンヌ出品を明言。「今度こそ」「またダメなんじゃ」ファンの意見は真っ二つ。

・04年GW、木村拓哉一家でハワイへ。実は木村拓哉だけこっそりタイへ飛び追加撮影を行
 っていたことが明らかに。

・04年5月12日、カンヌ開催。コン・リーら出演者もカンヌ入り。しかし肝心のフィルム
 は未着。実はこの間にもバンコクで最終撮影、そして編集作業が続いていた(^^;;

・04年5月15日、ようやくフィルムが到着。字幕作業に入る……はずが、現像に失敗しや
 り直し。がーん。

・04年5月19日、新人スタッフのミスによりフィルムの通関手続きに手間取り、予定の飛
 行機に間に合わず。この報に関係者一同真っ青。香港の毒舌エッセイスト、ジミー・ウンガ
 イ氏のコメントがふるっています。「荷物をまとめて帰る姿が目に浮かぶ」。

・04年5月20日(日本時間21日)上映当日。早朝ようやくフィルムがカンヌ到着、上映開
 始時間を大幅に遅らせたもののなんとか上映。賛否は両論。注目されていた木村拓哉の出番
 は合計7分。衝撃が走る。いろんな方面、いろんな意味で。監督は上映ぎりぎりまでパリで
 字幕をつけていたそうで、レッドカーペットにはげっそりやつれた姿で登場。

・04年6月13日、上海国際映画祭で再編集バージョンが10分ほど披露される。「ますま
 すわかりにくくなった」と興行成績を心配される。

・04年7月、8月に開催されるエジンバラ映画祭では別バージョンを披露すると発表。→間
 に合わず出品断念

・04年8月1日、木村拓哉が追加撮影のため香港へ。少なくとも日本公開バージョンは、カ
 ンヌバージョンより彼の出番が増えるのではとの見方。

・04年9月20日、上海で「国際バージョン」のお披露目。


カンヌと上海、両方観たという方のお話では、国際バージョンはかなりわかりやすくなってお
り、女優陣もほぼまんべんなく登場しているとのこと。木村拓哉の登場場面は「よくわからな
いけど増えていたように思う」(←中国人であまり木村くんに興味がないようです)。「カンヌ
バージョンはチャン・ツィーイーとトニーの話が中心だったが、国際バージョンにはさまざま
な女性達が印象的に登場する。中華圏ではチャン・ツィイーは嫌われ者なのでそのへんも考慮
されたのではないか」とのこと。

わかりやすいカーウァイ作品てどうなの? という気持ちもあるけど、やっぱり早く観たい作
品の筆頭であることに間違いない。

『欲望の翼』のラストも『花様年華』のラストも「??」と思わざるを得ないものだったが、
『欲望の翼』の謎は『花様年華』を観ることで一応納得。さっぱりワケわからんかった『花様
年華』も本作を観ることで自分的に納得できるものになるのだろうか。


しかしアレだ。今回『花様年華』香港バージョン、日本バージョン、字幕アリ・ナシ何回も観
たがいやあ、深い。この監督の映画が常に他国語(北京語、上海語、広東語が入り乱れる)で描
かれるのも、香港という土地の混沌とした空気感を表すのに、これ以上の表現はあるまい。


そう考えてみると、カンヌでは不評だったという木村拓哉の日本語ナレーションにも非常に深
い意味合いがあるはずだ。



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