映画がそんなにエライのか

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Vol.141 〜 Vol.150

Vol.141 『五線譜のラブレター DE-LOVELY』
●音楽家コール・ポーターと妻の夫婦ドラマです。ポーターの伝記映画には、劇中にも登場し
ますが、ケーリー・グラント主演の「夜も昼も」という佳品があります。これと差別化を図る
ためでしょうか、実にとんでもない内容になっていました。アメリカ音楽史に詳しい人には周
知の事実なのでしょうが、この人はバイセクシャルだったんですね。20年代、巴里に渡ったコ
ールは、社交界で美貌のリンダと出会い、恋に落ちます。ポーターの性癖を理解した上でリン
ダは「独立した男女として夢に向かって生きる」と誓い、二人は結婚。妻の支援もあって、コ
ールは一気に成功者となります。ところが、相変わらず収まらないのが男遊びの道。最初のう
ちこそ鷹揚に構えていたリンダも次第にストレスがたまってしまい、気分転換にとハリウッド
に移るのですが、これが大失敗の元でした。それこそ水を得た魚のように、コールは男狂いの
毎日を送るようになってしまいます。そのため映画の中盤はほとんどゲイ・ドラマと化してお
り、気をしっかり持たないと、自分は一体何の映画を観に来ていたはずなのか途方に暮れかね
ません。遂にはリンダもええ加減にせんかいとブッチ切れ、予告編と違うやないか、アタシと
アンタのメロドラマがなんでホモの話やねんと詰め寄ります。「え。だって納得のうえで結婚
したんじゃないの」とまたコールが、怒ってる女に論理で対抗するという最悪の切り返しをし
てしまい、ブンむくれたリンダはエニシンゴーズと家を飛び出し、夫婦仲は最大の危機を迎え
るのでありました。結婚前の女の言葉を真に受ける馬鹿がどこにいる、という有史以前から不
変の教訓を男性諸氏に改めて教え諭す。これがこの映画のテーマなのでしょう。ちなみに映画
としては、なんせジジイ監督が撮っているので、語り口が恐ろしく古臭いです。もっと言うと、
「オール・ザット・ジャズ」とほぼ同じ構成でした。
(上田貴士/編集/後厄)


Vol.142 『ベルヴィル・ランデブー』
●滅茶苦茶なキャラクターデザインが強烈な印象を与えるフランスのアニメです。ヨーロッパ
のアーティストは、人体のフォルムをあれほどまで醜悪に改造することに、どうして平気でい
られるのか。私には不思議でなりません。物語は、ズングリムックリのお婆ちゃんが、誘拐さ
れた孫を探して大冒険する内容です。孫は自転車レースの選手なのですが、彼と祖母との間に
は、実に恐るべき過去が秘められていたのでした。幼くして両親を亡くした孫を不憫に思った
お婆ちゃんは、孫が自転車に興味を持っていると知るや、ピカピカの新車をプレゼントしてや
ります。大喜びで乗り回す孫。初めて見る孫の笑顔に一安心したお婆ちゃんは、この自転車こ
そがこの子を幸せにする道と激しく勘違いし、彼を超一流の自転車レーサーに育て上げること
を胸に誓った、ようなのです。あのな婆ちゃん、スウェーデンと聞いただけで「どこでもみん
なやりまくっているフリーセックスの国!」と思い込んでた、昭和の親父どもじゃないんだか
ら。十数年後、コーチ役の祖母と共に、黙々と日課のトレーニングメニューをこなす孫の面妖
な姿を見よっ。筋肉は異様な形に変形し、頬はこけ、目付きはまるでデストピアSFに描かれる
未来管理社会の奴隷住人みたいなありさま。楽しそうに自転車を乗り回していた子供の頃の面
影はすっかり消えてしまっています。しかも、それでレーサーとして成功しているならともか
く、大して速いわけでもない(そもそも誘拐されたのも、走るのが遅いから)。あのままほっ
とけば、自転車は自転車として、他にもいろいろと充実した青春を送れたでしょうに。これで
良かったのか、悪かったのか。大人は子供の才能を伸ばす手助けをしなければいけない、とい
う義務感の是非について、ちょっと考えさせられるような映画でした。
(上田貴士/編集/後厄)


Vol.143 『オペラ座の怪人』
●「タイガーランド」「フォーン・ブース」「ヴェロニカ・ゲリン」と、らしくない作品ばか
り撮り続けて、気分転換したくなったのか。シュマッカー監督が、本来のキラキラ路線に久々
復帰した映画です。なんか、楽しそうに作っている感じが伝わってきますよ。内容は、オタク
の引きこもりがやっぱり女にフラれた、みたいなお話です。電車男なんて、実際のところは、
夢のまた夢なんですな。ここで教訓となるのは、女にフラれた時、男はどういう態度を取るべ
きか、ということでありましょう。あれこれしたやったからといって、愛される保証はないわ
けで、「感謝はしていますけど、そのつもりはないんです」と拒絶されて、カッと逆上する。
仕返しする。お前のせいだかんな、と因縁つける。それがどれだけみっともない行為か、この
映画を観ているとよくわかりますね。どんどん深みにはまっていったファントムは、最後には
改心しますが、事態は元には戻らず結局破滅します。世の中には、間違ったことを謝るにして
も更生するにしても、やり直すための最終期限というものがあって、それを過ぎてしまった後
でどんなに心を入れ替えようとも、もちろん入れ替えるべきではあるんだけれども、大した意
味はないということです。「謝るくらいやったら、最初からすな!」という子供の頃の教えが、
脳裏に過る結末でした。
(上田貴士/編集)


Vol.144 『THE JUON 呪怨』
●日本を占領していた米軍は、「うわ、こいつら紙の家に住んでる!」と驚いたそうです。お
そらく、「チャチやな」とも思っていたことでしょう。そして世紀が変わり、そのアメリカ人
達が、多少趣は変わったけれども、そのチャチな日本家屋とそこにこびりついた怨霊に片っ端
からぶち殺されていくという痛快無比な映画です。もう、外国人全員皆殺し。あおりを喰らっ
て日本人も何人か殺されていましたが、そんなところでウロチョロしているお前が悪い! 関
係ねえや、来た奴ぁ轢いちまえだこん畜生! と心の中でバンボーレを叫んでいたのですが、
そのうちに、日本人妻がアメリカ人男性に懸想して、女子中学生みたいに「ひみつの日記」を
書きつづっていたのがそもそもの発端だと判って、ドガックシです。このわたしの、ヒートア
ップしていた心を、一体どうしてくれるのだ。
(上田貴士/編集)


Vol.145 『サイドウェイ』
●何と恐ろしい映画でありましょう。あまりの恐怖に、観終わって激しい頭痛に襲われ、痛み
のひどさで眠れないほどでした。主人公は中年の国語教師。物語の本筋とは実はあまり関連な
さそうな、ワインの蘊蓄に長けた男です。その彼が友人と連れ立ってワイナリー巡りする話な
んですが、そこは特に問題もなく、私が恐怖したのは終盤での、友人の結婚式のシーンです。
男は離婚経験者で、別れた元女房に対してまだ未練を残していたのですが、その彼女と結婚式
で再会してしまうわけです。金持ちで二枚目風の新しい旦那と一緒に。しかも妊娠中。別れた
妻が、それ以来ウダウダと冴えない人生を送ってきてしまっている自分を尻目に、自分より明
らかに格上の男ととっとと再婚をして子供を作って幸せそうな顔をしている姿を目の当たりに
することほど、離婚経験者にとっての恐怖はありません。いや、俺は未練はないよ。ないけど、
宝物にしていたとっときのワインをヤケクソになって安酒の如く飲み捨てるポール・ジアマッ
ティの姿を見ていたら、あろうがなかろうが、だってあれ俺じゃん! この映画を評して「ほ
ろ苦い大人のラブコメディ」などと、太平楽に言っていられるあなた。その幸せを大切にして
生き続けて下さい。俺の分まで。
(上田貴士/編集)


Vol.146 『舞台よりすてきな生活』
●「僭越ながら一言」とかいって、本当に僭越なだけの人がたまにいますが、ここに登場する
子供嫌いの劇作家もそんな一人です。何の因果か近所の子供に妙に懐かれてしまい、相手をす
るうちに情が移ってしまうまでは良かったのですが、その子の母親の教育方針が気に入らず、
「アンタが親では、この子の将来の可能性を潰してしまう!」と大説教をかましてしまいます。
うーん、虐待をしていたとかいうことならまだしも、この場合、それを当の本人に向かって口
にできる立場ではないわな。実は劇中には、もう一つのストーリーがあって、作家はこれまた、
あるホームレスにも懐かれていたのです。その男は、彼が「隣家の犬がうるさくて困る」と漏
らしたのを覚えていて、ある晩に犬を射殺してしまいました。警察で「アンタのためにやって
あげたんだよ!」と釈明する男に、作家は「いやしかし、頼んだわけじゃないし……」と迷惑
千万な顔をしますが、わかる? あなたが子供の親に対してとった態度は、つまりそういうこ
とだ。「のためを思って」。ああ、なんと難儀な思いやりでありましょうか。映画の最後で、
作家は自分自身の子供を作ることを決意するわけですが、子供持ってどうする気だアンタ。
「お前のためを思って」とか言って、子供を改造するつもりか。
(上田貴士/編集)


Vol.147 『ル・ディボース パリに恋して』
●アメリカ人姉妹が、フランス流・愛の詭弁に振り回される話です。フランス男と結婚してパ
リに暮らす姉は、ボンボン育ちの夫に突然離婚を言い渡され、涙ながらにすがりつく。お上り
さんの妹は、何をトチ狂ったか、義兄の叔父との愛人関係に。自国ではそれなりに、言い寄る
男どもを軽くあしらってきたであろう彼女達が、ことフランス人が相手となるや、かくも容易
くねじ伏せられてしまいます。甥の妻の義妹であるケイト・ハドソンをランチに呼び出して、
いきなり「で、どういう条件でボクの愛人になるんだい?」ってあんた。言っててよくもまあ、
頭変にならないもんです。フランス人とは一体、どのような恋愛修練を経て成長するのでしょ
う。そんな、少林寺もビックリな修業の成果であるアムール責めで、ラ・マンの焼き印を全身
の性感帯に捺されたハドソンは、ムッシュウからプレゼントされたケリーバッグを肌身離さず
持ち歩く毎日。どこへ出かけるときでも何を着ていようとも、いつも同じバッグを手に下げて
いる彼女を見て、ムッシュウの姉である、義兄の母親が「いつもそれね」と一言くれます。そ
の瞬間のゾッとしたような顔が、素晴らしい。「こら原始人。おのれが持つなど、100万年早
いわ」だってさ、お嬢さん。洗練されたイヤミが言えてこそ、真の大人の証である。というの
が、子供時代の経験から悟った、私の人生訓でして。このマダムの言葉は、イギリス人のそれ
に比べればまだまだですが、見下げるべき相手は遠慮なく見下げていいのだという姿勢には、
多いに学ぶところがあると感じました。この映画、解説には「仏米のカルチャーギャップがコ
ミカルに」みたいな事が書いてありましたが、こりゃもう一方的に、アメリカ人が如何に武骨
で無粋で不作法で不躾な野暮天どもかと嘲笑しているだけです。ヨーロッパ人のDNAに刷り込
まれた、欧州文明の底知れぬ規模と不気味な迫力の一端を見せつけられた思いです。ヨーロッ
パ、私には怖い存在です。
(上田貴士/後厄/編集)
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Vol.148 『さよなら、さよならハリウッド』
●ウディ・アレン、今回は、オスカーを過去に二度受賞しながらも、現在ではすっかり落ちぶ
れた映画監督の役で登場です。キャラはいつも通りですが、今となってはもはや「型」を楽し
むべき存在なので、これでいいのです。ちなみに実際にアレンが受賞したのは一度だけです。
なんで「二」度の設定にしたんですかね。あんまり興味ないふりして、実はもう一個くらい欲
しかったのかな。さて、そのアレンに大作映画の監督オファーが来ました。欣喜雀躍して彼は
引き受けるのですが、あまりのプレッシャーからクランクイン前日になって突然目が見えなく
なって騒動が巻き起こります。抱腹絶倒というわけにはいかないのですが、まあ四半世紀付き
合ってきた身としては、年に一度の苦笑い、ぐらいでいいんですってば。で、完成した映画は
やっぱりひどい出来というかただのデタラメで、監督生命もこれまでかと思われたとき、何と
パリで大ヒットの報が入り、彼は意気揚々とフランスへ向かうのでありました。過去にもジェ
リー・ルイスとかサミュエル・フラーとかハワード・ホークスとか、自国よりもフランスで異
常に高い評価を受けた米国映画人が何人かいたようですが、そのあたりの話を下敷きにしてい
るわけでしょう。しかし、ですね。目の見えない人間が監督した映画を有り難がるフランス人、
というのはつまり、フランス人のセンスは(どこに目をつけてんだか)良く分らねえよな、つ
うことでしょ。監督としてのコメントでは、何かとフランスを持ち上げてはいましたが、どこ
となーくなんとなーく、チクリとしたものを感じてしまう幕切れなのでした。
(上田貴士/編集)


Vol.149 『キングダム・オブ・ヘブン』
●何かに遠慮しいしい作ったような、煮え切らない映画です。てっきりエルサレム奪還か獅子
王リチャードの話かと思い込んでいたら、(これはこれで歴史上有名ではあるらしいが)国破
れて撤退するだけのストーリーとわかって、ちょっとコケました。撮ってて楽しいのか? 全
ての原因は頭の悪い王様に政治を任せてしまったこちら側にあるのです。そりゃ自業自得です
よね。とか言いながら、エルサレムをキリスト教圏に囲い込むこと自体は、あり? イスラム
のサラディンが勝利目前で側近に「ここ落としてどうするんすか」と聞かれて、「え。別に意
味ないし」と答えてましたが、じゃイスラムは意固地になってるだけってことか? 中学で習
ったけど、十時軍つっても、借金帳消しとか税金免除とか一発狙いとか、山師連中みたいなも
んでしょ。ところがこの主人公ときたひにゃ、死んだ妻の供養と自分探しって、まるで脂気ゼ
ロ。下手にハメ外したら、何突っ込まれるかわかったもんじゃないから、いろんなことに気を
使った結果がこれってことでしょうか。意味はわかるが、意義がわからない。作る値打ちはも
っとわからない。みんなをアッと言わせるんだと張り切ったのに、向こうの両親やコンサルタ
ントの意見に角を削られて、いたって普通に丸く収まった結婚式みたいですね。まあ、監督さ
んは、色とりどりの旗がパタパタたなびく軍勢を撮りたかっただけなんだろうなあ。
(上田貴士/編集)

Vol.150 『四日間の奇蹟』
●あ、引っ掛かっちゃったなあ。少女を助けるために片手を失い、今では身寄りの無いその子
と暮らしている、元ピアニスト。彼の身に奇蹟が起きる話だと思っていたのに、狙いは女の方
だったとは。というわけで、不幸に耐えて生きてきた彼女を不憫に思って、神様が御褒美を下
さるというストーリーです。その不幸というのが、子供が産めなくて嫁ぎ先を追い出されたと
いう事情で、確かにまあ不幸には違いないけど、それで奇蹟ねえ、と腑に落ちない顔をするの
は我慢します。でもどうせ奇蹟を起こすのなら、人生やり直すぐらいのコトしてくれても良さ
そなモンですが、「あかん。死ぬのは決定」って、神様も渋いったらねえや。ところが、その
奇蹟の中味というのが大問題でした。実は元ピアニストはヒロインが昔片想いしていた先輩で、
なんと神様、彼女の男への愛を、少女の心の中に植え付けちゃうんですよ。神様なりに気を利
かせたつもりなんだろうけど、そりゃいかんでしょう。男は女の子を自分の娘として、すでに
養子縁組みしてんですから。やがて大きくなって女になって、パパと娘でどうしろってんです
か。奇蹟どころか、話を余計ややこしくしただけの、実にトンでもない神様なのでありました。
(上田貴士/編集)



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