映画がそんなにエライのか

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Vol.91 〜 Vol.100

Vol.91 『コンフェッション』
●テレビのバラエティ番組のプロデューサーが、実はCIAのヒットマンとして暗躍していたと
いうお話です。実話だとか。確証はありませんが、フカシでしょう。マスコミ人に話しを振っ
て、訓練して、外国に送って人殺しをさせるなんて、そんなリスキーな作戦案に部長が承認の
サインをしますか、普通。どこかの時点で話が漏れたら大スキャンダルですよ。基礎訓練を済
ませたCIA局員をプロデューサーに仕立て上げて送り込んだ方が、はるかに安くて確実ですも
んね。思うにですね。例えば「またまたあ」という突っ込みを期待してわざとボケて見せたら、
キャラが違いすぎていたり、近過ぎず遠過ぎずの距離感が掴めずアサッテの方向に行ってしま
ったため相手に引かれてしまい、二進も三進も行かなくなることがたまにありますが、まさに
この状態なのではないかと。起死回生のウケを狙って、半ばユーモア自叙伝のつもりで執筆し
たのに、みんなどう反応していいのやら判らずそのまま凍ってしまったため、スキャンダルに
もならなきゃトンデモ本扱いもされず、もちろん売れもせず、頭抱えていたところに映画化の
朗報が飛び込んできたが、脚本家は面白がって主人公の妄想炸裂と判るように書き込んでくれ
たのに(まさか、時空を越えて突然現われるジュリア・ロバーツやルトガー・ハウアーやジョ
ージ・クルーニーのキャラが、現実世界の人間を意味してるとは思っちゃいないですよね)、
監督がもう現場進行で一杯一杯で全体のコンセプトを練っていないもんだから、ますます扱い
に困る内容になってしまいました。パンツ脱ぐのもタイミングってことですね。
(上田貴士/本厄/編集)


Vol.92 『アダプテーション』
●原作の脚本化に難渋したシナリオライターが、だったらそのまま物語にしたるわいっ、と自
分を主人公に周囲の状況をぶちまけて、後は筆の向くまま、も、わし、この先どうなっても知
らんもんね、という自虐の詩です。こう書いても何の映画か判らないかも知れませんが、観た
ところでやっぱり判らないかも知れません。世の中にはおかしなことを考える人もいるものだ
と感心してればそれでオッケーでしょう。しかし私にとっては、主人公の自意識過剰な性格の
描かれ方が、辛すぎる。だって、あれ俺だもん! と心の中でスクリーンを指さした人、俺と
同類。美人プロデューサーと食事ミーティングしながら「でもこの人、絶対俺を見下してる」
と確信したり、撮影現場で誰も相手してくれなくて居場所がなかったり、何度か通ったカフェ
の女性スタッフが気さくに話しかけてくるのに舞い上がり、空気も読まずにいきなりデートに
誘って思いっ切り引かれて自己嫌悪に陥ったり、あああああっ恥ずかしいっ。正視できません!
 こういう手合に対して呑気な御仁は決まって「他人の目を気にしすぎ。思っているほど人は
見ちゃいないって」などとおっしゃいますが、違うだろう。人の目を気にするってのは、人に
見て欲しいってことだろう。見て気付いて笑って近づいて敬意を払って事によっては愛を込め
て話しかけて欲しいんだろう。注目を浴びながら、どんなふうにカッコ良く振る舞おうか、気
の利いた言葉を返そうか、その青写真を頭の中に広げておきながら、とてもその通りには行動
できない自分の限界も理解していて、やっぱり思った通りの結末に落着していく冷酷な現実も
受け入れて、毎晩布団の中で独りきりの反省会を開いては後悔と諦念の膿をグジュグジュと傷
口に滲ませつつ眠りにつくんだよ。知ってる人が向こうから歩いてくるのを発見すると、その
人を特に嫌っているわけでもないのに、いやむしろ好意を持っていれば尚のこと、物陰に隠れ
たり迂回したり、気付かない振りをしてやり過ごしたりしてしまうような人は、歯を食いしば
って観ましょう。
(上田貴士/本厄/編集)


Vol.93 『HERO』
●この期に及んで観ていない人はほっときますからね。国を滅ぼした秦王を狙う、お尋ね者の
三剣士。やつらを殺してきましたというジェット・リーの告白は全くの嘘でした。彼に与えら
れた使命というのは、その嘘の告白で王の近くににじり寄り、彼の命を奪うこと。でもありま
せんでした。確かにそれはリー自身が考案した作戦だった。しかし三剣士の一人であるトニー
・レオンは、その計画を耳にして、およそ信じられない言葉をリーに託していたのです。「も
はや秦を止めることはかなわない。地に平和をもたらす唯一の選択は、一刻も早く、秦に世界
を征服してもらうことだ。だから秦王を殺すな」と。ひいじいちゃんの代から住んでた土地を
地上げ屋に狙われて「ここに巨大マンションが建ってたくさんの人が暮らせるなら、只であげ
ようじゃないか」って言ってるようなモンです。散々引っ張って、このオチはスゴイなあ。極
右組織や民族主義者が聞いたら、鼻で笑うんじゃないでしょうか。中国思想史の勉強をしたこ
とがないんですが、中国人の道理としてこれ正しいんですかね。もちろん現実には、そんな考
えを持つ人間などいるはずもなく、やられれば誰だって腹立たしい。せめて一矢報いてやると
交互にやりあって、あちこちで泥沼にはまりこんでいるわけです。世界の辛い現実に対する、
一種の壮大なファンタジーなのでしょう。まあ、底が抜けてるだけかも知れませんが。
(上田貴士/本厄/編集)


Vol.94 『〈ムーミン パペット・アニメーション〉』
●邪悪ってことよりも、むしろ「どないやねん」って話なんですが。例えば、金目当てとかで
人の命を狙うのならまだ理解もできるが、動機が本人にすら不明という殺人が一番不気味であ
るように、何事につけ原理原則の推し量れない行動ほど困惑するものはないわけです。いわゆ
る「狂」ですね。それと同じような理由で、実に恐ろしい映画でした。全6章の内の第1章を
観ただけの所感なんですが、まあ一事が万事、恐らく全部観ても考えは変わらないでしょう。
ムーミンと仲間達が山で魔法の帽子を拾ってくるんですが、この魔法が何というか「狂」でし
て。中にモノを入れると別のモノに変化して出て来る仕組みなんですが、このX=Yの関数が
サッパリ読めない。外国語の辞書を入れたら変な言葉の蔓草が生えた。アリジゴクを入れたら
水が出てきた。ムーミンが入ったらフロリダの王様(なんですと?)になった。どういう法則
なのか、何の魔法なのか、そもそもこれが間違った使い方をした結果であるのかもわからない。
普通こういう場合はですね、大人の命令を無視してイタズラすると痛い目に遭うんですよ、と
かいう教訓なんかで締め括りそうなもんですが、家中水浸しになってもママは怒らないし、ム
ーミンも後悔したり反省したりしないので、それではあれはこの世界ではイタズラとは認知さ
れていないのか、ならばこの話は何をテーマに何を目的に書かれたものであるのか、と私のよ
うに教条主義的で保守頑迷な人間は次第に不安になってきます。原作者が脚本も書いているそ
うなので、全ての正解はこの人の脳味噌の中にしか存在しないのですが、ひょっとするとそこ
には作者にしか判らない論理などというものすら端から存在せず、およそ理屈や筋道という考
えが全く生成されない原形質の海がタプタプと波打っているだけなのではあるまいか。この人
の目には、世の中が世の中以外のものに見えていたのでしょう。変わり者、いやこうなると一
種の変質者ですね。おっとろしいことです。
(上田貴士/本厄/編集)


Vol.95 『青春ばかちん料理塾』
●ゾッとしたなあ……。後藤真希が大人たちに混じって料理教室に通う中で、いろいろなこと
を学んでいくってお話しです。まあ学ぶったって、番組改編期に8時から放映される1時間半
くらいのゆるいスペシャルドラマって雰囲気なので、背筋が思わず伸びるほどに重要なことは
学びません。後藤には本名を知らないメル友がいるんですが、その正体が同じクラスの50過ぎ
の武田鉄矢だと知って激ギレします。武田は男手一つで育てた一人娘に嫁がれて寂しくなり、
つい偽名でメールをしていたんだそうです。そのことを謝りに後藤の実家を訪問すると、彼女
の母親の斉藤慶子も独身で、しかも学生時代の武田が家庭教師をした女の子であったことが判
明。たちまち打ち解ける2人。後藤も許す気になって、さあラストシーン。後藤の言葉は「わ
たし、いつか、武田さんの奥さんになろうかな」って、おい、斉藤とくっつけるんじゃないの
かよ。咬ませ犬か、あれは。ドギマギする武田に「冗談よ」とか言いつつも、その表情は、
「おんなの部屋」の前に立ってドアノブに手をかけた娘のそれ、という演出です。どうやら本
気で恋をさせるつもりらしいです、この映画は。10代の娘と50男の愛というオチはそれほど衝
撃的とは申しませんが、しかしこれ、どういう客にとってのファンタジーを目指して書かれた
話なんでしょうか。つうかこれ、一体誰の差し金なんでしょうか。ここに介在する、何か大き
な意思の存在についてちょっと考えてみたくなる映画なのでした。
(上田貴士/本厄/編集)


Vol.96 『ゲロッパ!』
●やっぱり関西弁はいいなあ。関西弁の真骨頂は、誰かを叱責したり、恫喝したり、説教した
り、非難したり、とにかく他人を攻撃するときにあると思うんですよ。普通に喋っても、慣れ
ない人が聞いたら、怒ってるんじゃないかと誤解されやすいってのがその証拠ではないかと。
ヤクザ映画と関西弁が切り離せないのも、同じ理由じゃないかな。というわけで、関西弁のリ
ズムとイントネーションを存分に味わえるこの名篇も、やはり関西ヤクザのお話なのでした。
ストーリーは人情話ですが、そこは井筒監督。チクッとイヤミを織りまぜることも忘れてはお
りません。親分の西田敏行が探している生き別れた娘の居所を、鮨屋の大将が見つけ出した方
法というのが住基ネットへのハッキングで、「親が前科者のヤクザ」で検索したらポーンと出
たとか。便利やねえ、住基ネット。就職面接や縁談の相手どころか親兄弟親類縁者三代昔の素
性まで調べあげたり、世間に舞い戻って来た当時未成年者の現住所を追跡できたり、悪いやつ
らがなんぼでも新しい技を編み出してくれよるで、と軽くイチびっているわけですね。客を楽
しませつつ、非合法ビジネスのきっかけまで示唆するあたり、関西人のお得好き根性が十二分
に発揮されている作品と言えるでしょう。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)


Vol.97 『ロボコン』
●かねてからテレビで観戦するたびに、地味な見た目の中にかなり豊潤なドラマの養分が湛え
られているよなあ。誰か映画にでもすりゃあいいのにと思っていたのですが、ついにここに目
をつけた人が現われたのですね。喜び勇んで観に行きましたよ。ダメ人間達が一念発起してゴ
ールを目指すという、物語の王道パターンをキッチリと踏襲した内容でした。ロボコンという
のは、単にロボットのスペックが優れていれば勝てるものでもなくて、試合運びのセンスがか
なり重要な要素になっているんですね(今回のルールでは、立体三目並べのような空間認識力
が必要とされており、特に準決勝戦が面白い)。そのロボットの操作を、主演女優の女の子が
スタントもワイヤーもCGも使わず、ぎこちない手つきで実際にやっているもんだからなかな
かの臨場感でした。いやあ、小さいながらも充実した映画だったなあ。満足満足。……なのに
何ゆえにここで取り上げているのか……。実は、私、見てしまったんです。それは大会前夜、
ロボットの調整作業を終えて夜食のラーメンをメンバーが食べるシーン。ゾゾゾゾと4人が美
味そうに食する中、ひとり女の子の動作だけが何かおかしい。いやあ、話には聞いていたんで
すが、生まれて初めて見ましたよ。麺を啜れない若者ってやつを。箸先で麺の束を口の中に送
り込み、舌と唇をあむあむ動かしながら頬張っているんですよ。何をやっとるんだ、この娘は。
ええい、まだるっこしいっ。啜れ! 啜らんか! 麺を食むな! 
(上田貴士/本厄/編集)

Vol.98 『28日後...』
●死者が甦るわけではないので、厳密にはゾンビとは呼ばないのでしょうが、ビジュアルとし
てはゾンビ映画です。怒りの衝動を抑制する新薬を開発するために、先ず被験者を準備しなく
ちゃと、感染したら怒りで動くものを皆殺しにしたくなるウィルスを開発したのがそもそもの
間違いでした(キミらは何や)。ウィルスを体内で培養している実験用のチンパンジーを、そ
うとは知らない動物保護団体が解放したことから悲劇が起こります。「動物愛護だ!」とか言
ってた連中が、猿に噛みつかれた途端「殺すぞ。エテ公!」と豹変するあたりに、すっげえイ
ヤミを感じて思わず笑っちゃいますね。で、28日後には世界中ゾンビ(取りあえずこの表現で)
だらけになるわけですが、この映画の新しい点は、このゾンビの動きがメチャクチャ速いって
事です。今までのゾンビは大抵が、両手を前に上げて「フンガー」とか言いながらドタドタと
歩いていたわけですが、こいつらと来た日にゃ、あたかも取り付け騒ぎを起こした銀行に殺到
する預金者のような全力疾走でこっちに向ってくるのです。ゴキブリが不気味なのは、あいつ
らが虫のくせに異常な速さで移動するからで、仮にカブトムシがあの巨体で猿〈ましら〉の如
く壁を上ったら、やっぱりギョッとすることでしょう。速く動くものは人間に恐怖を与えるん
ですよ。しかもこのウィルス、潜伏期間が20秒と、これまた速すぎ! 逃げたところで追いつ
かれますから、相手が誰だろうと感染した時点で殺さなければならないんです。「ひょっとし
たら治るかも」とか「え、やだ、うそ、ありえない」てな甘えは許されません。つまり、この
映画が観る者に突きつけているのは、あんたは何事につけ自分の頭で即断即決できるのか、と
いう刃の切っ先であります。授業中あてられても俯いて黙ったまま助け船を待つ、仕事でトラ
ブルが進行中なのに誰かが収めてくれるんじゃないかとジッとしている、体が悪いと自覚して
いるのに医者に行くのを先延ばしにして手の施しようがなくなってしまう、そういう自分の人
生に無責任な体質について、つと考えさせられてしまう映画なのでした。
(上田貴士/本厄/編集)


Vol.99 『くたばれ!ハリウッド』
●ロバート・エヴァンスというハリウッド大プロデューサーの半生記です。それも本人がナレ
ーションをやっています。のっけからいきなり「真実は一つではない」などと放言しています
ので、結局のところ、自分に都合のいいことしか喋ってないと思って良いでしょう。それであ
っても、なかなか面白い内容でしたが、しかし一番に私が呆気にとられたのは、本人の独り語
りの部分です。ナレーションのみならず、さまざまな声色を使って、色んな人物との会話を回
想・再現して見せる、その熱の入り方が、良く考えると、やはりこの人、ちょっと変。特に元
妻、アリ・マッグローとのアツアツ新婚時代の愛の会話を、思い入れタップリに演じ分けなが
ら一人芝居するあたり、唖然としますね。あなた例えば自分がよ、恋人と2人だけのイチャイ
チャ場面を再現ドラマ仕立てで一人部屋にこもってテープに録音しているところを想像してみ。
馬鹿だろ、それ。それを映画にして他人に聞かせても平気って、どういう神経よ。当初は、ナ
レーションに借り出されるのをひどく嫌がったという話だけど、実は嫌いじゃなかったんです
ね。前に出たいタイプだったと。そういう意味では、天性のプロデューサー体質なのでしょう。
俺はいいよ、って言いながら、マイク握った途端延々と歌い続ける奴を連想しますが。
(上田貴士/本厄/編集)


死 ぬ ま で に 暴 い て お き た い 1 0 0 本 目 の 映 画

Vol.100 『死ぬまでにしたい10のこと』
●22歳の主婦。17で初体験、そのまま妊娠を機に結婚。更にもう一子誕生。同年代の夫はバイ
トに毛の生えたような肉体労働者。ビール好きだが、麻薬もギャンブルもやらず暴力も振るわ
ず女癖もなく、毎日きちんと勤めに出ていく子煩悩な男。トレーラー暮らしなのでホワイトト
ラッシュの部類ではあるが、夫婦仲は良く、そもそも妻自身が低所得層母子家庭の出身なので、
私の人生こんなもんかな、と納得していた矢先にガンで余命2カ月の宣告を受けてしまいます。
で、タイトル通りの行動に出るんですが、その中でも肝なのが、「ほかの恋人を作ってセック
スする」という一文。この、新しい恋人との出会いと別れに映画の半分が費やされています。
最初のセックスで、ただでさえ数少ない人生のクーポン券を全部使いきってしまったという、
漠然とした後悔と自責と憤りが、彼女の心の底で澱となっていたのでしょう。残された娘のた
めに、成人するまでの誕生日用のお祝いメッセージを録音して、子供への愛情をアピールした
りもしますが、奥さん、もうそんな心にもないことせんでもええヤン。憎くはないけど、子供
を愛するってのも、もひとつピンときてなかったんだろ。他の男と逢ってる暇があったら、子
供と過ごすことに一分でも多くの時間を割くのがホンマと違うんかい。それからなあ、子供に
新しい母親が必要だからと、自分が見込んだ隣家の女を亭主に会わせて、後に再婚するよう下
ごしらえしてえらく好い気になってるみたいだけど。ごめん、ハッキリ言わしてもらうわ。お
ま、頭おかしいやろ。
(上田貴士/本厄/編集)



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