映画がそんなにエライのか

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Vol.51 〜 Vol.60

Vol.51 『ロックンロールミシン』
●人生に対して鬱になったサラリーマンが、高校時代の旧友と再会します。そいつは自分のフ
ァッション・ブランドを立ち上げようと活動している、夢のある男でした。彼の事務所に入り
浸るようになった主人公は、会社の先輩から「インディーズで成功できる奴はほんの一握り。
会社員が一番堅実なんだよ」と忠告され激怒します。この時点で映画は、先輩に代表される小
市民的発想を否定するように思えました。ところが物語は急転直下。夢に賭けるようなことを
ほざいてた友人は、要するに現実の責任を回避したいだけのぬるま湯体質であることを露呈し、
主人公は主人公で、あれはひと夏の麻疹だったと言わんばかりに晴れ晴れとした顔で会社に舞
い戻ってしまうのです。結局のところ先輩の言葉どおり、最後に勝つのはサラリーマンなのだ
という結末です。若者の夢を支持するふうを装いながらこの仕打ち。何と悪辣な映画なのでし
ょう。専門学校生の皆さんは覚悟して下さいね。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)


Vol.52 『OUT』
●流行りのフレーズでいうところの、「地図を読めない女」たちが右往左往する話です。4人
とも強力ですよ。1.ギャンブル狂の暴力亭主で腹の中には赤ん坊。2.ブランド中毒でカード破
産。3.地上げ寸前文化住宅で寝たきり姑の介護地獄。4.夫リストラ息子ボンクラで精神的一家
離散。まさに「劇場版 女ののど自慢」状態。彼女たちには空想力というものが致命的に欠落
しているんです。こうしたらこうなる、ああしたらああなるというモノの考え方がまるで出来
ない。いいから弁護士を呼べ。とっとと警察に通報しろ。迷わず上司にチクれ。カラオケ歌っ
てる場合か。女性の判断力をナメすぎな気もしますが、反面教師としての利用価値はあるでし
ょう。似たような境遇に悩む方は、覚悟を決めて劇場へ。でもって結末がまた、殺人罪で逮捕
&死体遺棄で全国指名手配という、見るも無残な状況になっています。もはや殺すか蒸発する
しか解決方法はないと言ってるようなモンですね。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)


Vol.53 『サイン』
●不信心者が多くて、神様は最近御機嫌斜め。「あいつら俺っちのことをちっとも尊敬しやが
らねえ。ヤキ入れちゃる」。そう考えた神様は食人宇宙人に予言を下しました。宇宙を作った
のは神様ですから、宇宙人にとっても神様は神様なのです。「あー、皆の者よく聞け。太陽系
第3惑星にマークがあるから、そこに行けばエサがあるぞ」。宇宙人たちが半信半疑で遠征し
たところ、予言通り不思議なサークルが。そいや!とばかりに宇宙人たちは狩りに励みました。
ところが神様は、裏でコソッと宇宙人撃退法を教えていたのです。これに気付いた人々は這う
這うの体で逃げていく宇宙船を見ながら「神様、ぅありがとおおおお!」と、改めてその偉大
さに恐れ入るのでした。信者獲得のために神様自身がマッチポンプを仕掛けたという、すさま
じい大ボラ話です。家族の結束だのオチがどうだの、真正直な論議は不要。それこそが監督の
罠。松雪泰子のファイバー・ミニみたいなもんですね。(この項『プロフェシー』に続く)
(上田貴士/編集/四十郎/男性)


Vol.54 『エンジェル・アイズ』
●ジェニファー・ロペスの命を救った謎の男。彼の正体は。彼女との因縁とは。恋におちた二
人の末路は。などとあおるので、てっきりラブ・サスペンスだと思っていたら、物語のテーマ
は全く違っていました。ロペスの父親は暴力夫で、彼女の通報で逮捕された過去があったので
す。だが家族はそのことでロペスを逆恨みし、結果、父親はひねくれ、母親は脅え、所帯を持
った兄はやはり妻に暴力を振るい、ロペスはすっかり心の荒んだ女になりました。この一家は
誰一人として幸せを掴めなかった。恐らくこの先、末代までも、この毒血は受け継がれていく
ことでしょう。謎の男の登場によって、ロペスの心も少しは癒されるのかもしれません。しか
し元には戻らない。親にやられた自分は、今度は我が子に同じことを繰り返してしまうのだろ
うか。この呪いを解く方法は見つからないのだろうか。家庭内暴力に悩んでいる方には、あま
りお勧めできません。覚悟の上、御鑑賞下さい。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)


Vol.55 『プロフェシー』
●陽は昇り陽は沈む。虫はその理由を知らず、ただ真理が存在するのみ。ならば人知を超えた
宇宙の因果律もまた、人より高次元の存在には自明の理であろう。例えばモスマン(蛾男)に
は。という『サイン』とよく似た話なんですが、実際のところモスマンも神様も運命も関係な
くて、この映画が秘めている真の教訓は「喪の仕事」についてでした。突然の事故死で妻を失
った主人公は、その死とも関係ある「モスマン」の謎を調査するうちに、新しい愛を見つけま
す。だが踏み込めない。どころか、ストレスで精神を冒されてしまう。大切な人を失った時に
果たすべき、どん底まで悲しみ泣き狂う「喪の仕事」を怠るとこういうことになるという話で
す。こと死に限らず、怒りや憎しみなどで燻る心は、感情のニトロを爆発させて一気に吹き消
すべきなんですね。思いあたる方は早めの処方を。変なプライドで抑圧すると、私のように変
なシワが頭の中に残りかねませんから。剣呑剣呑。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)


Vol.56 『セレンディピティ』
●奇妙な偶然で出会った男女。「これは神様の思し召しに違いない」と男は舞い上がりますが、
女は「これが運命なら、奇跡は繰り返されるはず」と男を翻弄します。馬鹿が。運命論を唱え
るのは自由だが、貴様のやっていることは運命を玩んでいるだけのことだ。お前如きの凡人に、
神が二度も三度も手を差し伸べると思ったか。案の定、そう何度も偶然が起きるわけもなく、
二人はすれ違ったまま、再会するまでに数年の月日が流れるのでした。たまにいますよね、
「もう少し、もう少し」と下手な駆け引きした末に、結局何も手に入らない人って。人生のタ
イミングを見誤ったり、折角の天恵を見送ってしまうアホウには、神様からのキツイお灸が待
っとるでというお話です。ちなみに、彼女の改心が認められたのか、最後にはハッピーエンデ
ィングが用意されてますので、安心して観に行ってください。神様も人が良いよなあ。教訓:
欲しいモノは欲しい時に欲しいと言うこと。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)


Vol.57 『モンテ・クリスト伯』
●主人公のエドモンは無学な船乗り。親友だと思っていたフェルナンの罠で島流しにされてし
まいます。苦難の末に脱出し、復讐を誓ってパリに出現すれば、婚約者のメルセデスは憎きフ
ェルナンの妻となり、あまつさえ子供まで産み落としている有り様。どええい、アノここなう
すら売女め! と怒りを誘う展開ですが、実はそこには裏が。その子はエドモンの実子で、メ
ルセデスは子供の将来のために、事実を隠して急ぎフェルナンと結婚したのでありました。さ
てここで収支決算。えー、御破算で願いましては、エドモンがフェルナンを倒して自分と結婚
するなり。エドモンが金銀財宝を持っているなり。息子はフェルナンの爵位を継承する、では。
はい、デュマ君。えーと、愛情、経済、社会的地位、メルセデスの一人勝ちです。工藤静香か、
お前は。生物界のメスは、自身の遺伝子をより良く残すためにあらゆる戦略を施す。竹内久美
子先生の教えが身に染みる女の勝利宣言なのでした。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)


Vol.58 『至福のとき』
●まるで浅田次郎ばりの泣きの爆弾がラストで炸裂し、目をくらまそうとする姑息な映画です。
そこで泣いているあなたに質問。主人公は盲目の娘に善行を施して、突然の交通事故で死んで
しまいますが、これを理不尽と思います? 一般には、あの太っちょオバサンの方がいけ好か
なく映りますよね。でも少なくともこの人は嘘はついていない。継子いじめも他人同士ならば、
ある意味、理屈です。本当の再婚者が見つかってからは、引き取るとまで言っている。何より、
手紙を無視したのは、むしろ娘の心情を思いやっての行為だった。対してこのオッサンときた
ら。誰に対しても、嘘、嘘、嘘のたれ流し。一番に無様なのは、テメエの人生を騙して甘やか
して生きてきたことだ。だから50も過ぎてこのザマなんだよ。娘に対する嘘は善意なのか、御
為ごかしなのか。だから、嘘吐きは死んで当然、とは申しませんが、死ぬのも尤もなコトかな、
と思いますねえ。……やっぱり、死ね。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)


Vol.59 『アイリス』
●老夫婦のインテリ妻がアルツハイマーで死ぬまでの、見るも無残な話です。思索に耽ること
が愉しみの私にとっては、とても他人事とは思えない恐怖でした。しかしここで重要なのは、
看護でキレた夫が吐く本音です。妻はセックスも文学活動の一つと考える女性で、若い頃から
雑多な男と交わっていました。夫もその中のひとりでしたが、いい歳して童貞で、おそらく妻
しか女を知りません(妻は結婚後もやってたハズ)。その彼が叫びます「さんざんやりまくっ
て、残ったのは俺一人。いいザマだ!」……やはり気にしていたか。女性の自由恋愛を認知す
ることで自分は進歩的思想の理解者だと取り繕っても、結局抱くのは恋人の豊富な性体験に対
する卑屈な思い。気にするぐらいなら筆下ろしだけにしておきゃ良かったんですが、知識人と
してのプライドが素直な嫉妬の感情を認めたがらなかったのでしょう。高年齢童貞のただれた
怨念こそが、この映画の真実のテーマだったのです。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)


Vol.60 『ギャング・オブ・ニューヨーク』
●カソリック系移民とプロテスタントのネイティブによる宗教戦争ですが、本当の敵は物語の
クライマックスになって登場します。親父の跡目を継いだディカプリオ・ギャング団と、地元
の顔役であるデイ=ルイス軍団がついに激突せんと広場に集結すれば、そこではすでに国の徴
兵政策にブチ切れた貧民が黒人大虐殺の暴動中。唖然とする間もなく、海軍の一斉艦砲射撃で
粉微塵に吹き飛ぶギャングたち。何と戦うハメになってるんだか、状況としてはほとんどコメ
ディですが、ここに国家の持つ凄まじい暴力性が描かれています。国が打ってくるゲンコツの
前では、国民同士の争いなんざ軽く吹っ飛んじまうっつう話です。ホント国って怖いですよ。
平和維持のために国家は怪物として国民の上に君臨すべしという、『リバイアサン』を連想さ
せると同時に、現在のブッシュ政権のやり口を意図せずして当てこすってしまってるようにも
見えます。発端でもある9.11テロが映画の完成に影響したという事実にも、何やら因縁めいた
ものを感じますしね。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)



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