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Vol.61 〜 Vol.70
Vol.61 『裸足の1500マイル』
●オーストラリアでの実話だそうです。親から引き離された、白人との混血児であるアボリジ
ニの少女3人が、収容所を脱走する話です。なぜ混血児だけが隔離されたのかというと、未開
人のアポリジニを救援するために白人文化を教育し、白人の白い精子と何世代も交配させるこ
とで黒い遺伝子を薄くさせようと、当時の政府が計画していたからなんです。英語を喋らせ、
聖書を読ませ、フォークとナイフの使い方を覚えさせ、さあパンツ脱いでこっちへおいで。カ
フェオレにミルクをもっとタップリ注いであげようねえ。レイプじゃないぞ、ヘルプだぞ、と。
気は確かだったのか、貴様ら。宗教に裏打ちされた博愛精神から発生する、無自覚な偽善ゆえ
の不気味さが猛烈な瘴気を放っています。弱者を思いやる心や自分の行動に強い信念を持つこ
と自体は、決して間違いではないはずなのに、何故こんな事態を招くのか。この際、感動とか
涙とかそんなことはほっといてですね、ケネス・ブラナーの白い顔だけをジックリと眺めてみ
てください。
上田貴士(編集/四十郎/男性)
Vol.62 『運命の女』
●ライン監督お得意のオシャレ不倫モノですが、ここで重要なのは、間男が色男のフランス人
という点です。かつてノルマン公ウィリアムに征服されて以来、アメリカの上層白人たるアン
グロ・サクソンはフランス人に対して複雑な劣等感を抱いています。もちろんセックスに関し
ても。フレンチ娘を見れば「ジュテームでアム−ルでコーマンタレブー」な欲望を抱くくせに、
フランス男のことは「囁きとチンチンで女をねじ伏せる」とんでもねえ野郎であると。ですか
らこの映画でも、間男の扱いの酷いこと。女の亭主に脳天かち割られて夢の島に棄てられ、ブ
ルに踏まれて全身粉々にされてから遺体が発見され、実は女房持ちという駄目押しで観客が
「案の定」と思う仕組み。行いはともかく、一応事件の被害者なんですけどねえ。フランス男
に気をつけろ。あいつらはセックスハンターだ。というハリウッドのイメージ操作がここに施
されているわけですね。てめえらこそ、夫婦の絆をセックスの回数で規定するチンコバカのく
せにな。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.63 『ストーカー』
●かねてから目をかけていた人妻に亭主の浮気写真を送り付けた主人公は、平静を装って夫に
接する彼女の姿に逆上します。あーそうよなあ、と納得する瞬間です。対人関係の経験値が低
い彼には理解不能な反応だったのでしょう。例えば片思いの相手に電話をかける時、シナリオ
といいながら実はテメエに都合のいい展開を期待して失敗する過去が人にはあります。我々は
こういった経験を重ねてコミュニケーションを学ぶわけですが、中には強烈に失望や恥辱を感
じて「こんなことなら一人でいい」と考える人もいます。こういう手合は実は構って欲しくて
気が狂いそうになっていますから、誰かに笑顔のひとつでもかけられた日にゃ凄まじい勢いで
独り芝居を演じて、ますます失望の度合いを深めていくわけです。他人に歩み寄れない人生。
拒絶を気取って、チラチラと横目で物欲しそうに見ている人生。私、判りますよ、それ。発端
はどうあれ自分の不幸は自分自身に責任がある、というクールな法則を思い起こさせる映画で
した。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.64 『アレックス』
●レイプ場面が話題ですが、その点についてはわざわざ指摘しません。確信犯的露悪趣味に過
ぎませんから。問題は物語の時間軸を遡行させた構成にあります。本来ならば映画の中盤以降
に見せられるべきレイプ&殺人シーンを先に体験し、その後で、いずれ起こる悲劇に気づくは
ずもなくイチャつく男女の姿を我々は目撃する。それによって、運命の持つ理不尽な非情さを
より深く認識する。というのがこの映画の味わい方なんですが、しかしあなたチラッと考えな
かったか? 「後半何か物足りねえなあ」とか「もっと何か起きねえかなあ」って。ん〜?
例えばしゃぶしゃぶでは肉を食べ尽くしてから野菜に取りかかり、最後に良いスープを味わう
わけですが、その際に「肉終わりかよ。もっと喰わせろ」といつまでもガッつくような、鈍感
な食のセンス。にも似た、頭の悪い、黒くて臭いネバネバが心の中にこびりついていないかど
うか。を炙り出してくれる、検査薬のような作用を持つ映画なのです。これは。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.65 『小さな中国のお針子』
●文革。下放政策で山間にやられた青年二人が村人から労働を強いられます。ま、労働たって、
あーた、村人の日常作業なんですから、精神的には奴隷でも中味はホームステイの体験学習み
たいなモンですわ。え、不遜な言い方だ? じゃ連中のやってるこたぁ一体何だよ。お針子の
村娘と懇ろになって、ちゃっかり川でセックスしてんじゃんかよお。パラダイスじゃねえか馬
鹿野郎。で、この二人、バルザックなんぞを読ませて、無学なお針子を啓蒙しようとします。
何かのために啓蒙するのではなく、それ自体が目的である点に、彼らの無自覚な尊大さが透け
て見えますね。持ってる者が持たない者に対して、勝手に同情して援助を押し付ける図式です。
結果、知恵のついた娘は髪を切ってとっとと都会へ出ちゃいました。男たちは中年になっても
まだ娘を想って泣いてますが、女の方はお前らのことなんか思い返しちゃいないよ。かつて軍
事教育した田舎のゲリラにしてやられた大国のような、好い気になってると足下を掬われると
いう教訓話なのであります。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.66 『オー・ド・ヴィ』
●年下の、それもひと回り以上若い男と付き合っている女性の方は覚悟して観て下さい。タイ
トルは蒸留酒の意味だそうで、函館のバーを舞台にした、酒と料理と愛憎と性欲渦巻くお話で
す。バーテンの岸谷五朗は、親子ほど歳の離れたオーナーの鰐淵晴子と愛人関係にあります。
店の常連客と旅行に出掛けるという鰐淵の言葉に拗ねた岸谷が、裸の彼女を前にしてサディス
ティックな言動を取る場面。ここです。鰐淵の胴体にズシリと巻き付いた脂肪の帯を掴んで、
そのぶ厚さを見せつけながらのイヤガラセ。やめて! と拒否反応を示す愛人に追い討ちをか
けるように、容色の衰えを自覚させる言葉嬲り。峠をとうに越え、あとは腐るのを待つだけの
肌、腹、乳、尻、髪、爪、歯、卵、皺、斑、黄、濁、汚、臭、鈍、衰、滅、死、無……。かつ
て若さを誇った者はその若さに、肉体を顕示した者はその肉体に逆襲されるのです。女人生の
難儀さを思い知らされる性悪な映画でした。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.67 『ジェイ&サイレント・ボブ 帝国への逆襲
●「おばか映画」などというフレーズが罷り通る昨今ですが、そんな生ぬるい言語感覚を何の
覚悟もなく垂れ流すような輩に正義の鉄槌を下し、真の馬鹿映画というものがどれだけ不毛で
あるかを教えてくれる、まったくもって危険極まりない映画です。出てくるのはひたすら「フ
ェラ・オナラ・ゲイ・チンコマンコ」。これだけ。本当にこれだけ。精神年齢6歳以下のみ鑑
賞可。だから素晴らしいとも、故に低能だとも申しません。精神年齢6歳以下のみ鑑賞可。た
だそれだけのことです。馬鹿であるということは、馬鹿であるということ以外に何の意味も価
値もレトリックも持たないということです。嬉々として「おばか」を連発するような、ギャグ
を解する知性を持った一味違うインテリの方は、この映画を前にしてどんな態度を取るつもり
なのでしょうか。貶せば馬鹿に核付けする偽物、誉めれば精神年齢6歳以下容認。腹くくれよ。
さあ、どうする。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.68 『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』
●義賊などではない、ただの犯罪者が主人公の映画です。散々人をだまくらかして大金を巻き
上げときながら、服役後FBI職員の仕事を得た後にコンサルタントとして独立、自叙伝を書
いて印税ガバチョ、映画化で自分の役を演じるのがディカプリオという、親の言いつけを守っ
て地道に生きているのに年に一度の海外旅行にも行けないような人生を送っている人が観たら
激怒しそうな内容です。ですが、激怒しないようにできてるんだよなあ、これが。息子と父親
の涙溢れる(俺泣いちゃったぁ)愛情物語として徹底的に書き直されたうえに、(安っぽいけ
ど)親の離婚が遠因という言い訳が盛り込まれ、そして、全ての元凶として悪役に配置された
母親というのが……フランス人だあ! まあ、実際にそうだったんだろうけど、だったら尚更
好都合なことに……フランス人だあ! 観客が抱くと予想される、あらゆる負の疑念を除去し
て排除する装置が巧妙に仕掛けられているんですね。これがハリウッド・マジックってやつで
す。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.69 『プール』
●「高校生版『危険な情事』」というフレーズで括られていますが、まあ確かにそんな内容で
した。高校水泳部のエースがガールフレンドに悪いと思いながらも、肉感ビッチの転校生に迷
わず勃起。立ち泳ぎのまま関係を結ぶと、彼女はその後ストーカーと化し、男を罠にはめて退
部させ、恋人の命まで狙います。この映画で素晴らしいのは、全て彼女の悪事だと露見しても
なお、男は水泳部には戻れず大学への推薦入学の道を断たれ(アメリカでユニバーシティに進
学できない者は、地元で一生を終えるらしい)、ガールフレンドも事件のショックで精神に変
調をきたしていることを暗示して一瞬のうちに終わるラストです。浮気は人生を破滅させると
いう教えですが、しかしですよ、別に結婚しているわけでもないのに何故そこまで脅さにゃな
らんのか。裏返せば、セックスを覚えたての頃から条件づける必要があるほどに、既婚者の不
倫が当たり前の国ということなんでしょうかね。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.70 『青の炎』
●母子家庭の少年は、母親の再婚相手が離婚しても尚、家に居座り続ける状況に我慢なりませ
んでした。あまつさえ母親は、未だにその男との性行為を受け入れ、ドアの向こうから爛れた
喘ぎ声を漏らすのです。異物を排除すること、相手の社会的地位を抹殺すること。幾つかでも
選択肢はあったはずですが、彼は短絡的に殺人を計画してしまうのでした。てな状況について
は、どうせ作り話なんですから同情しても無意味なこと。この映画(まあ、これに限ったわけ
でもないが)をきっかけに想像すべきは、人を殺した後の難儀さについてでありましょう。の
っぴきならない状態から解放されたかったはずなのに、嘘が自乗倍で増えていき、ますます底
なし沼に嵌り込んでいく憂鬱な状況。今日バレるか明日バレるかって考えながら生きていくこ
との、何たる面倒臭さ。みなさん、他人を害すること、とりわけ人殺しだけは絶対に止めまし
ょうね。後がめんどくせえだけだから。めんどくせえのイヤだろ。
(上田貴士/編集/四十郎/男性/男の値打は、やっぱ心意気だよなあと『わたしのグランパ』
観ていて再認識しました)