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Vol.71 〜 Vol.80
Vol.71 『わたしのグランパ』
●ちょっと考えてみて欲しいんだ。アンタに中学生の娘がいるとして、その娘が学校でイジメ
の標的にされていたとしたら、アンタその事態をどうやって解決するかね。俺にも、想像つか
ないよ。で、そんなところにこの映画だ。オールバックの銀髪に着流し姿。堅気なのにヤクザ
殺して13年のムショ暮らし。元会社社長で腕っぷしが強くて、何が起きてもビビらない肝っ玉。
得体の知れない豊富な人脈を持ち、金の使い方も洗練されて、ジャズも歌える教養の深さ。そ
んな爺さんが孫のイジメはおろか、あらゆるトラブルを次々解決していくんだぜ。しかも声と
目付きが菅原文太だ。いるかよ、んなカッコイイ年寄り。ファンタジーだよ。だから作家が創
作する価値があるんじゃねえか。そうとでも思わなきゃ自信なくすっての。自分はこんな老人
になれるかなんて、チラとでも考えちゃダメだっての。てめえの父親と比べちゃ、ダメだって
の。で、アンタ自分の子供をこの先どうやって守るつもりかね。男の値打って何だろうね。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.72 『WATARIDORI』
●渡り鳥の記録映画なので、成長した若鳥が羽ばたく姿に「やがて旅立ちの時が来た……」と
『素晴らしい世界旅行』ばりのナレーションが被さるのかと思いきや、開巻早々何の前振りも
構成全体への意味合いもなく、カッコウの雛がホトトギスの卵を蹴落とす瞬間がインサートさ
れたまま、一切のフォローがないので底知れぬ不安に襲われます。その後も、飛翔映像の合間
に挿入されるビザールなエピソードに目を奪われっぱなし。でっけえ嘴の鳥が、親の目の前で
ペンギンの子供をぶっ殺すとかな。檻に囲われた鳥が飛び去っていく同類を見送るシーンは、
『世界残酷物語』のタイトルバックそのままだし、羽根の折れたアジサシにカニの大群が迫り
来る場面なんか『ブラックホーク・ダウン』かと思ったぞ。ムツゴロウさんと愉快な仲間たち
的な、呑気で可愛い鳥さんの世界を思い浮かべているとちょっと足下を掬われるというか、と
にかくそんなんじゃねえから、残酷好きは迷わず観に行け。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.73 『ナショナル・セキュリティ』
●最近のアメリカ映画では、黒人のコメディアンが登場すると必ず「俺が黒人だから、差別し
ているのか!」と絶叫するギャグが目立ちますね。おいおい、いくら何でもそれは被害妄想や
ろ、という客の苦笑を狙ってのボケなわけですが、この映画の場合は少々度を越していました。
岡村顔のマーティン・ローレンスが、口を開ければ「黒人が」「黒人が」と繰り返します。物
語は、白人の警官が彼を暴行していると勘違いされ社会問題になり、真相が判明してもなお
「これで不起訴にしたら黒人社会で暴動が起きる」と検事や警察当局が恐れたため有罪となっ
てしまってさあそれからという内容で、もはや単なるギャグではなく、ストーリーの根幹をな
していると言っていいでしょう。黒人の社会的不平等を是正する精神が過保護に過敏になり過
ぎたのではないかという、喉まで出かかるけど口にできない意見を聞こえよがしにあてこすっ
た映画のようです。ちょっと観て下さい。段々、イライラしてきますから。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.74 『11'09"01 セプテンバー11』
●9.11テロについての所感をどうぞ、というコンセプトの短編集です。大体3つに分類できそ
うです。1)殺し合っても何にもならんちぇ 2)つうか、アメさんの自業自得でねえの? 3)
ヨソんチのことなんかに構ってられるかボケ。……肩を持ってくれる人は皆無か。アメリカ代
表のショーン・ペン監督作なんか無茶苦茶ですよ。陽の当たらないボロアパートに住む独居老
人の話なんですが、ツインタワーが崩壊した途端に日光が差し込んで枯れてた花が咲くんです
から。ハレルヤでも流れたかと思いましたよ。でも折角花が咲いたのに独りぼっちで寂しいよ
お、ってオッチャン、ちょっとぐらいビルの方を見たれや。いま人が落ちてんねんぞ。どうし
てこういう、ショーン・ペン、このゴンタくれが、わはは。どの作品も、どことなく他人事の
ようでした。やはり、あの事件の画ヅラがあまりに浮世離れしすぎていたため、「ほえー」と
いう感慨しか浮かばなかったんじゃないですか。そのあとのイラク戦争についてはみんな率先
して何か発言しているんですけどもねえ。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.75 『BULLY〈ブリー〉』
●実話だそうです。いけすかねえ高校男子一人を、ガキどもが集団でブッ殺した話です。人格
的に相当の問題を抱えてはいたものの、殺害された男の子が一応大学進学の目処も立っていた、
会社経営者の息子であったのに対し、殺した連中は全員が学校中退か無職の身というのが、実
に興味深いですな。しかし笑うよ。コメディだよ、こいつらの致命的な頭の悪さ。殺人計画の
杜撰さは当然として、犯行後みんなでアリバイを決めて「絶対喋るんじゃないぞ」と口裏を合
わせておいたはずなのに我慢できなくて、聞かれてもいないのにペラペラペラペラてめえらの
方からダチとか親に喋る喋る。散々喋っときながら、相手が話の異常さに勘づいたら、関係ね
えよって今更ながらに否定する。で、捕まった後は、てめえが喋っときながらお互いに「お前
がチクったんだろう!」って、馬鹿だろこいつら。わはは。というわけで学んだこと3つ。馬
鹿は一歩先が読めない。馬鹿は自分が馬鹿だとは夢にも思わない。馬鹿の命は安い。以上。起
立、礼。(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.76 『エニグマ』
●ドイツ軍の暗号解読を巡って、ヘナチョコ数学者が涙目で奔走する映画です。この男が遅咲
きの初恋に半狂乱になる姿に、グッとキちゃいました。誰が見ても人付き合いが下手そうな奴
で、女性との交流なんてもはや曲芸に近いわけですよ。それが割りと綺麗どころの女が向こう
から近づいてきて、お食事・ダンス・セックス(筆下ろし?)の三段跳びで有頂天。ところが
女の狙いは男が持っていた国家機密だったようで、それが入手できないと判るやいきなりバッ
クれ。突然融資を切られた中小経営者でもそんなに取り乱さないだろうってぐらいに、奴、半
狂乱。機密でも何でも喋るから行かないでくれって、半泣きです。まあ気持ちは判らんでもな
いが、女を深追いしても泥沼に沈んむだけだからなあ。中学生の時に、女の話ばかりする男子
生徒を腹の底で小馬鹿にして勉強に集中してたからこんなことになったんだべ。恋愛の痛手と
おたふく風邪は人生の早いうちに済ませておかないと、後々えらい目に遭うという、一種の教
訓話なのでした。(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.77 『アバウト・シュミット』
●シュミットさんの素敵な定年ライフの物語です。それなりの野心はあったものの、結局管理
職の末席を汚しただけで退職したシュミットさん。これといった再就職の引きもなく、するこ
ともないので「やあ、元気?」と昨日の今日で会社に顔を出してはみたものの、バイク便の兄
ちゃん以下の関心しか払って貰えません。仕方なく古女房の相手でもしてやるかと思った矢先
にポックリ死別。一人娘に構ってもらおうと思っても、どこがいいのか薄らハゲのボンクラと
結婚間近。いろいろあって結局、死ぬまで会うこともなかろう(無論言葉も通じない)アジア
の孤児に慰めを見出すしかないド悲劇に陥って終わりです。これ、笑ってる場合か? 俺ら男
どもの末路は、大なり小なりこれやぞ。銭でも持ってなきゃ、普通のジジイなんか誰も相手に
しちゃくれんぞ。誰も。だ・れ・も! 50過ぎの男性にとっては、もはや恐怖映画だと言って
差し支えないでしょう。だからさ、先ずは皿洗いの習慣から身につけておきましょうって。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.78 『コーリング』
●赤十字で働く妻が南米で事故に遭ったと聞き、夫のケビン・コスナーは現場に飛びますが、
遺体が発見されません。現地警察は状況から死亡と断定し、コスナーは泣く泣く帰国するほか
ありませんでした。それからです。彼の周囲で謎のメッセージが飛び交うようになったのは。
それを冥界の手前で彷徨う妻からのサインだと思い込み、コスナーは半狂乱になっていきます。
友人たちは錯乱による幻覚だと哀れみます。結末は映画で観てもらうとして、なるほどと思っ
たのは、遺体の果たす役割についてです。大切な人が死んだ時、我々は徹底的に悲しまなけれ
ば、乗り越えることが出来ません。そのためには動かぬ証拠である遺体を、この目で見なけれ
ばならないのですね。でないと諦めきれない。その苦悶をコスナーが演じて見せています。事
情(事故、失踪、戦争、とか)により肉親や恋人や親友の亡骸を弔うことが叶わなかった方に
とっては、だから、辛かった記憶を呼び起こしてしまう映画になるかも知れません。
(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.79 『ジャンダラ』
●エロ場面バッチリのタイ映画。という話だったので、Hシネマ用かなと思って観たんですが、
これが凄まじい地獄絵巻でした。確かにフルサイズのセックスシーンが何箇所もあります。浅
黒く引き締まった男の尻が、大きく広げられた女股に密着してパンパンとリズミカ……んな描
写をしてる場合じゃないよ、あなた。内容は主人公ジャンダラの呪われた回想記、要は「因果
応報」の教えです。とにかく出てくる人間が全員不幸になります。なるというか、出てくる前
からすでに不幸です。2時間近くの間、目にするのは「セックス」と「不幸」だけです。まる
で「セックスすると不幸になる」と、『時計じかけのオレンジ』のルドヴィゴ療法を施されて
いるような気になってきます。つうか、それが狙いじゃねえのか。タイだし。仏教だし。オナ
ニーしようとAV借りたら、モザイクの代わりに母親の顔写真がトリミングされて呆然と手が止
まった中学男子のような気持ちにさせられる、まことにありがたい映画でした。ありがたない
わっ。(上田貴士/編集/四十郎/男性)
Vol.80 『ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密』
●母娘の確執と復縁の物語です。劇作家のサンドラ・ブロックのインタビューが掲載されまし
た。「母は聡明な人だけれど、自己中心的で酒飲みで家の中は荒れ、私をベルトで殴り、父は
黙って耐えていた」。それを読んだ母親の怒ったこと。娘は自分のことをこんな風に曲解して
いたのかとショックを受けます。でも、本当にその通りだったんですよ。そもそもサンドラの
母と祖母の親子関係から精神的問題が発生しており、親の因果が孫まで報いていたということ
なんですね。最後には誤解であった部分も解けてメデタシなんですが、ちたっと待った!たぶ
ん観た人全員、同じ疑問を持つと思うことが……。サンドラには弟と妹がいるんですが、この
二人の現況が一切語られないんです。当時小学生だったサンドラでさえトラウマを負ったんだ、
もっと幼かったこの二人が無傷のハズはないだろう。何故誰も口にしない。何故実家に呼ばな
い。もはや一切言及できないような有り様なのか。閉じこめられているのか。そう考えると、
もはやホラー映画の様相を呈してきますね。ちなみに母親役のエレン・バースティン、昔は
『エクソシスト』の母親役、最近では『レクイエム・フォー・ドリーム』の薬漬け母親役をや
っています。うわ。(上田貴士/編集/四十郎/男性)